三題噺「ゴルゴ」「ズッキーニ」「ドリフターズ」

※しりとりで決めた3つのお題で30分ちょいで書き上げた文章だからキチガイなのは仕方ないのです。



 頭上でズッキーニが破裂した時、志村けんはまだ歯を磨いていた。
「ゴルゴ13……ッ!」志村はわけもなく直感した。振り返りながらチューブを投げ上げる。飛び散るズッキーニの破片から狙撃方向を読む。ヘッドショットを狙う弾道上を飛んだクリアクリーンのチューブが瞬時に爆ぜ、白い粉が飛び散る。志村は流し台に転がり込み、流れ弾で出来た銃創にタオルを手なれた手つきで縛りつける。白いタオルに老いた志村の赤黒い血が滲んだ。
(よし、動脈はいっていない)志村は傷の深さを痛みで確認し、状況を確認する。朝のキャンプ場だ。志村はあずまやの下。ステンレスの流しで歯を磨いているところを狙撃されたということ。
(銃声の間隔からして、射手の位置は300〜500m。……東か。逆光で見えそうにない……。この風の中、狙うからには相当な手だれだが……)
流し台の下を這い、柱の陰に身を隠して志村はズッキーニの破片を見降ろす。
(外したにしては、狙いが正確すぎる。最初からズッキーニを狙っていたようにしか見えない……)
 二射目の気配がないことを確認し、志村は膝を起こす。キャンプ場に残された焼き肉用の鉄板を防具がわりに体に巻きつける。『ドリフターズ』としての全盛期を思わせる手際の良さだ。
(やはり俺は、『ドリフターズ』でしかないのか、長さん……?)
 そばにある薪の束を全力で草むらに放り投げる。大きな音、鳥が立つ。反動を生かして志村は逆側に飛び出し、転がるように自動車の脇に飛び込む。遠くで草むらをかき分ける音。近付いてくる。志村の背筋に汗が流れた。
(長さん、悪かったな、やっぱり怖いもんだ)
 動き出した今、狙撃銃は使えない。志村は肩の痛みを忘れ駆け出した。芸能界を握る『ドリフターズ』の一員として、狙われることは何度もあった。荒井注との共闘、加藤茶の危機、全てアドリブで乗り越えてこれたことを思い出す。
(だが、長さん、アンタは死んだ)
 もう若くない。分かっていたことだ。そして次は自分の番になる。長助の死と共にドリフターズとしての動きは終えた、そんな言い訳が通用する世界じゃないのは、志村がだれよりも知っているのだ。
 コテージの裏の倉庫に飛び込んだ志村は、40年来の相方を抱えこむ。金盥。
「長さん、力を貸してくれ」
 倉庫を飛び出した志村の投げた金盥が、唸り声を上げ朝の森を切り裂いた。