一日遅れの夏が終わる

 いやー最後まで目の離せない壮絶な勝負だったなぁ……。野球は筋書きのないドラマとよく形容される(筋書きのないドラマが本当に面白いのかは別問題だが)が、今回は一種何か、こう、キてましたね。デスティニー。

 アーチが乱れ飛び、球史に残るほどの逆転劇、好ゲームが数々飛び出した今大会、その決勝戦は一転して息詰まる投手戦。しかしその決勝戦に相応しい素晴らしい戦いだったと思う。今年ほど白熱する甲子園は今後そうないだろう。

 ちなみに決勝戦での田中、斉藤の踏ん張りは二人に甲子園通算100奪三振という記録を与え、そして中沢が再試合9回表に放った意地の一発で今大会のホームランは60本という大台に載った。

 最後に今日活躍した選手たちを。

  • 田中

 2番手の菊池が昨日・一昨日に引き続き秒殺され、1回裏から早くもマウンドへ。3連投ながらまだまだキレるスライダーと球威のあるストレートを低めに集め、打たせて捕る投球で早実打線を苦しめる。昨日・一昨日以降の好調は相変わらず続いていたが、さすがに制球が乱れたところを早実につけこまれ、2回早くも1点を失う。

 しかしそれ以降は貫禄のピッチングを見せ、凄まじい気魄の投球を見せる。だが終盤、自身や守備のミスから更に2点を追加された。

 それでも三連覇へ執念を燃やし続け、9回表2死で一発出れば同点の場面で打者として斉藤と激突。魂を絞るようなフルスイングで凄まじい粘りを見せたが、斉藤渾身の速球の前に三振に倒れ、何か吹っ切れたような笑みを浮ベ、物凄い歓声の中ベンチへと去っていった。

  • 斉藤

 7試合目、4連投、全ての試合を完投している。体力の限界を懸念するのがバカらしくなるほどに涼しい顔で序盤から三振を量産。3回までパーフェクトの投球で5つの三振を奪い、1,2回の得点で早実に傾いた流れを決定づけた。

 駒大もさるもの。初球からストライクを狙う攻めのピッチングにも慣れられ、少しずつ反撃を受け始める。疲れもあってかさすがに制球も落ち始めたが、相変わらずよく落ちるスライダーや要所でのフォークで駒大に連打させず、三谷にホームランを食らい、一点差に迫られても後続を確実に抑え、流れを与えなかった。

 だが9回表、最後にしたいマウンドで痛恨の失投を中沢に完璧に捉えられ、最後の最後でまたも一点差に。この時ばかりは彼も飛んでいく球を見上げて何かひとりごちていた。

 一発が出れば逆転の場面でも表情は変わらなかった。意地のホームランの後に続く4,5番を完璧に押さえ、最後のバッターは何の因果か田中。この場面で魂を燃やす田中に対し、斉藤も応え、全力のストレートで勝負し、見事三振におさえた。

 決して表情を変えなかったクールな剛腕が、涙を流しながらクールダウンのキャッチボールをしている姿が印象的だった。

  • 本間篤

 駒大を率いたメガネのキャプテン。センターとは思えないゴツイ身体で4番を張った。

 これまで幾多の戦いで4番に相応しい活躍を見せてきた彼だったが、決勝戦では早実バッテリーの前に完全に封じられ、出塁すらままならなかった。20日は延長15回最後のバッターとして斉藤に敗れ、21日は逆転の灯火を受け継ぐことが出来なかった。しかしそれは彼が去年も4番を務めたチームの大黒柱として恐れられていたことでもある。

 試合後、背中を折り曲げて嗚咽していた。その背中を田中が撫でさすっていた。

 バットを震わせる独特の構えと豪快なフルスイングで桐蔭戦などで活躍した早実の5番打者。前日は駒大の満塁策を破ることが出来ず、悔しさを噛み締めていたが、今日は菊池を相手に大きな先制点を放った。思えばコレが決勝点。

  • 三谷

 駒大3塁手で1番打者。切り込み隊長として安定した打率と守備を誇り、今日もしょっぱなから斉藤を捉え、すわ駒大ペースかと思わせ、6回にはホームランを放つなど、常に反撃のきっかけを作り続けた1番打者の鑑。

  • 菊池(オマケ)

 駒大投手控え。智弁戦・昨日今日の決勝戦と安定して不甲斐なく、序盤で幾度も秒殺され、今日は任務失敗どころか敗因まで作ってしまった。3回目の今日など、どうしようもなくなった人が浮かべる苦笑いと共にベンチへと帰っていった。決勝・準決勝共にいいとこのなかった人。

  • 白川

 斉藤とバッテリーを組む捕手。決して打撃は上手くはないが、斉藤のボールを一切後逸せず、三谷のホームランをチャラにするタイムリーを放つなど、女房役として斉藤を支え続けた。彼がいてこそ斉藤は脅威的な力を発揮できたのだろう。

以上こんなもんでした。球児たちの夏も終わり、私の夏ももうすぐ終わりです。