燃える仕事ってこういうことか

官僚たちの夏 (新潮文庫)

官僚たちの夏 (新潮文庫)

 男の世界。漢の世界です。城山三郎、アツい作家です

 岩波現代文学全集みたいなハードカバーに、先日の「落日燃ゆ」とセットで収録されているこの小説。舞台は60年代の通産省、主人公は豪放磊落で才能を愛し、熱い理想を持った通産官僚の風越
 風越に率いられた有能で熱い官僚たちが、雛のような日本の産業を欧米の自由化の波から守ろうと戦後最大の経済立法に取り組む。豪放な親分肌の風越は圧倒的な求心力と、緻密な人事戦略で地位を築き、理想の産業体制の確立を目指していく。
 人材を揃え、後の通産省の理想形をも設定し、政治家や内部の人たちと豪快な物言いで悶着を起こしながらも邁進していく風越の姿は爽快だが、どこか危うさを持っている
 政策立案の過程や、官僚社会の力関係、議会や政治家たちの関係や陰謀、大臣らの人格とそれが省に及ぼす影響、省内人事……実直な文体で進む文章は相当なリアリティを持っている。かなりの調査・勉強がなければ、こんな本とても書けないだろう。すごい

 人物の心理描写などには重点を置いていない。しかし、作者の頭の中では既に人物が生きているに違いない。キャラ作りのためにとってつけたような行動や言動はどこにもなく、本当に生きた人間たちが動いた姿をドキュメンタリーにしたかのような錯覚もある。実際、モデルがあったのだろうけれど(どことなく名前似てるし)圧倒的な存在感を持つ主人公でありながら、その短所も客観的に見据え、単純な二元論やご都合主義に陥っていない。天下国家を動かす、漢のロマン溢れる物語でありながら、そのロマンを描くだけに留まっていない、いわばロマンで人を引っ張り、魅了してきた風越の限界というのさえ描いている。様々な人間がいて、それぞれの生き方があって、感情がありもつれがあり、あくまで熱さの中心にある風越が主体だけど、こういった作品の広さ、深さの持つ生々しさは、ふっと背筋が冷えるぐらいに迫力がある。

 官僚を取り扱った小説はあまりない。多分これほどに綿密に描きこんだ作品はそうそうないだろう。海千山千うごめく国政の場なんかを描くなんて複雑すぎる技をやってのけている作者の根気と情熱はやっぱりすごい。文章表現の妙が云々と言ってる青白い文学野郎ではない
 純文学なんかじゃない、真剣な「社会小説」。漢の生き様を生々しく伝える作品。「歴史小説」というには生々しい。決して新しい本ではないけれど、「国士」の精神は脈々と今に受け継がれているのだろう。官僚さんのお話を含めて、だいぶ官僚に憧れができた
 この本を読むきっかけを下さった元会長に感謝。財務省、頑張ってください



 さて、中間に向けてそろそろ気合入れて勉強しなきゃならんね。と思ったところに、図書館に頼んでいたこんな本が

資本主義は嫌いですか―それでもマネーは世界を動かす

資本主義は嫌いですか―それでもマネーは世界を動かす

タイトル自体はやけに思想的な感じだけど、実際の内容はサブプライムローン問題で浮かび上がる病巣の追及がメイン。そこから現代資本主義・マネー経済を深くえぐっていく、という形のよう。まだ序章しか読んでないけど、期待できそう