ちょっとした哲学本

『思想を持てば思考の力はその分おとろえる。ものを考え続けるためには、すでに考えられてしまったこと(思想)を、そのつど打ち捨ててあかなくてはならない。でも、ひとりでそれをやるのはとてもむずかしい。だから、自分にかわってそれをやってくれるひとだけが、つまり"有効な"批判をしてくれる人だけが、哲学上の友人(=協力者)なのだ』

『では、哲学は何の役に立つか。世の中のあらゆること(惰眠とか泥棒とか……)が何かの役に立つとしても、哲学は本来なんの役にも立たない。まさにその役にたたなさこそが、哲学の存在理由であり使命なのだ。役に立つとは、何らかの価値の存在を前提にして、それの実現に貢献するということだが、哲学はどんな価値も前提としないことがゆるされる(すべての価値を問題にできる)唯一の営みだからだ』

『たとえ哲学が終結したとしても、それによって哲学する当人の人生に何かがプラスされるわけではない。ただマイナスが埋まるだけだ。何かがプラスされるゆうに見えるのは、そのマイナスの存在を感知しない人たちの方向から、見たときだけなのだ。哲学の成果を思想として受け入れ、それを信じて生きていくのは、だから、いつも他人なのである』